俳優 大矢剛康 氏

若い力をもっと地域に

俳優 大矢剛康 氏

インタビュー・文 / 片山久美・加藤美幸・壱岐信二俳優 大矢剛康 氏

9月13日に片瀬西浜海岸で行われたビーチクリーンアップイベント「湘南ビーチクリーンforカエルデザインwithリハス〜障がいがあっても稼ぐ〜」。砂浜でのビーチクリーンで回収したマイクロプラスチックを、様々な障がいを持つ人たちに素敵なアクセサリーにアップサイクルしてもらうという取組みだ。この日、多くの参加者に交じって、一人の青年が熱心にマイクロプラスチックを拾っていた。

 大矢剛康。

 tvk(テレビ神奈川)昼の帯番組「猫のひたいほどワイド」火曜日リポーターとしてレギュラー出演中の新進気鋭の若手俳優である。話しかけたときに向けられる、美しくまっすぐな瞳が印象的だ。地元湘南のみならず、幅広く活躍する大矢の過去・現在・未来に迫った。

ぽっちゃり&目立ちたがり屋

 1992年藤沢生まれ。さわやかですらりとしたルックスが印象的な大矢だが、幼少期はぽっちゃりタイプで目立ちたがり屋、明るい性格の男の子だった。

「小さい頃は太っていたんですよ。小学校で『イエローカード』をもらうくらい(笑)。小児ぜんそくがあって、2歳のころから10年くらい水泳教室に通っていました。学校ではムードメーカーとまではいかなかったけど、人前に出るのが好きな目立ちたがり屋の性格でしたね」

 現在、大矢が所属している株式会社太田プロダクションのホームページでは、大矢の特技は「ダンス」と記載されている。小さなころから水泳で培った基礎体力や筋肉が、その後のダンスに生かされているのだ。

 「小さなころからダンスが大好きで、運動会で全校ダンスがあると、誰よりも目立ってやろうと張り切りました。でも、当時は『ダンス=女の子』のイメージがあったので、ダンスレッスンに通う勇気がなくて。最初は見よう見まね、独学で身につけていった感じですね」大矢の明るい性格は地元の藤沢市立大鋸(だいぎり)小学校、その後転校した大道小学校の友人たちにも好かれ、学校が休みの日には江の島で遊び、小さな頃から海に親しんだ生活を送っていた。そんな大矢が「芸能界」への門を叩いたのは、小学校5年生の時。きっかけは、母が観ていた『ナースのお仕事』というドラマだった。

『ナースのお仕事』に憧れて

『ナースのお仕事』は、1996年に開始された病院で働く看護師(当時は「看護婦」)の奮闘を描いたコメディドラマシリーズである。主演の観月ありさが演じる主人公朝倉いずみが、新米ナースとして笑いあり・涙ありの経験を重ね、一人前のナースとして成長していく姿を描いている。

 「観月ありささんの大ファンで、『ナースのお仕事』の朝倉いずみにどうしても会いたくて、『どうしたら朝倉いずみに会えるんだろう?この病院はどこにあるんだろう?』と自分でいろいろ調べたんです。そうしたら、実は、朝倉いずみも、彼女たちが勤める若葉会総合病院も存在しないものだと知って、衝撃を受けました。と同時に、架空の世界をリアルに作り上げていくお芝居の仕事を、すごく面白いと感じたんです」

 両親を説得して小学校5年生でタレント養成所の子ども劇団に入団し、毎週末、演技やダンスのレッスンに明け暮れる生活が始まった。もともと楽しいことが大好きという性格も功を奏し、徐々にエキストラの仕事なども入ってくるようになった。

 「初めてのお仕事は、バラエティ番組でゲストが話すエピソードの再現VTRでした。有名女優さんの子ども時代を演じる女の子の顔面にボールを当ててしまう役。初めて演技をしたという喜びと、オンエアされてから友達や家族から『番組観たよ!』と言ってもらえる嬉しさに、とてもわくわくしたことを今でも覚えています」

 その後、藤沢市立藤ヶ岡中学校に入学。学業やソフトテニス部での部活動に専念し、一時的に芸能活動を中断したものの、高校に進学し、そろそろ将来の進路を考えるようになった高校2年生の時に一念発起。再度芸能界の道を目指そうと決め、親に相談することなく、大手芸能プロダクションに応募したのである。

 「父が小さいころから厳しく、食事の作法や人とのしゃべり方、生活の中での立ち居振る舞いもしっかりしつけられました。中学1年生で部活が忙しくてタレント養成所を辞めてしまったので、今度中途半端なことをしたら絶対許してもらえないだろうなと思って。大手の芸能プロダクションに合格したら納得してもらえるかなと思ったんです」

 合格しなければ芸能界をあきらめる覚悟を決め、事務所に応募した。数々の審査を通過し、大人気のお笑い芸人や売れっ子俳優を抱える大手芸能事務所「太田プロ」に合格。地元出身の先輩俳優・つるの剛士氏も太田プロだ。3年のブランクを経て、大矢は芸能活動を再スタートしたのである。

「父との約束」を果たすために

現在28歳の大矢は、芸能活動を再スタートした時に父と約束したことがある。

 「太田プロに入ることを認めてもらう条件として、父と、『28歳までに芸能生活で自立できるようにすること』を約束したんです。今がその28歳。地元の友達も結婚したり子どもができたりしている年ごろ。自分にとっても節目の年なんですよね」

 父との「男同士の約束」をしてから今まで、がむしゃらにやってきたという自負がある。初めてのドラマ出演は、殺人現場で悲鳴を聞いたコンビニ店員で、刑事役の有名俳優から事情聴取を受ける役。大学に通いながら芝居の勉強をし、地道に経験を積みながら、俳優業にまい進してきた。

 大学を卒業する頃、そんな大矢の考えを変えた番組との出会いがあった。それが、tvk「猫のひたいほどワイド」である。

「猫のひたいほどワイド」、通称「猫ひた」は、2016年からスタートしたtvk制作の地域情報バラエティ番組である。祝日を除いて月曜日から木曜日までの正午から13時30分までの生放送番組で、大矢は、TV・映画・舞台などで活躍する若手俳優16名で構成されるリポーター集団「猫の手も借り隊」の一人として、番組開始時から携わることとなったのである。

「猫ひた」のコンセプトは「情報の地産地消」。視聴者等から寄せられた“猫のひたいほど狭い”エリア、地元ならではの情報をもとに、大矢ら「猫の手も借り隊」メンバーが潜入リポートをし、ワイドに発信するのだ。

「猫ひた」はtvk本社1階にあるスタジオから公開生放送され、併設されたレストラン「ハーバーズ・ダイニング」からも観覧できる。地元局だからこそできる、距離の近いアットホームな雰囲気も番組の魅力である。

 「20代前半までは、ひたすら俳優業で頑張っていこうと、それこそがむしゃらにやっていました。でも、『猫ひた』を始めて、台本通りのセリフを発するのではない、自分で考えた自分の言葉を発する面白さにも気が付いたんです。リポーターとして現場に入ると、フリーな時間も含めたロケ全体の時間は、全部自分の責任。もちろんプレッシャーもあるし、事前準備もたくさんあって大変ですが、自分にしか発することのできない言葉で、大好きな地元の情報を発信できる。ロケ先で関わる様々な人々の言葉と、自分の言葉がうまく紡がれると、出来上がった作品に、大きな喜びを感じる自分がいるんです」

 実際、大矢の潜入リポートを受けた横浜市の郵便局長は、礼儀正しく、明るく爽やかな大矢にとても好感を持ったという。小さな頃から父に厳しく指導されてきた相手に対する誠実さや礼儀は、大矢のリポーターとしての人生に大きく役立っているのだ。

ブルーフラッグ取得を応援したい

 幼少期から現在を通して大矢の遊び場であり、青春の場でもある地元藤沢の名所、片瀬西浜・鵠沼海水浴場は、現在、海辺の国際環境認証「ブルーフラッグ」の来夏取得に向けた取組みを行っている。大矢が9月13日に参加したビーチクリーンアップイベント「湘南ビーチクリーンforカエルデザインwithリハス〜障がいがあっても稼ぐ〜」もその取組みの一環である。

ブルーフラッグとは、デンマークに本部がある国際NGO FEE(国際環境教育基金)による世界で最も歴史ある国際認証制度である。①水質、②環境教育と情報、③環境マネジメント、④安全性・サービスの4分野、33項目の認証基準があり、毎年審査を受けて更新する必要がある。基準を満たしたビーチ・マリーナ等はその証として、青いフラッグを掲げることができるのだ。

 全国トップの海水浴客数を誇る西浜での取得は、安全・安心できれいな海づくりの象徴事例として、国内のビーチへ大きな影響を与えるだろう。このビッグプロジェクトに対し、大矢も積極的に応援していきたいと語る。

 「今回のビーチクリーンに参加して、改めて『海岸ごみ』は永遠のテーマだなと思いました。小さい頃から毎年、海の日に近づく時期に両親と一緒にビーチクリーンに参加していたんですが、幼いながらに、『毎年同じことしているな、なんでごみはこんなに減らないんだろう』と思っていました。今回、初めてマイクロプラスチックを意識して拾いましたが、本当に小さいですね。トングではとても拾えない。この大きさでは、海洋生物に影響があるんだと改めて実感しました。西浜がブルーフラッグを取得することで、若い人たちにマイクロプラスチックのことや海ごみ全体のことを知ってもらえるきっかけになれば何よりですね。私も地元西浜でのブルーフラッグ取得はぜひ応援していきたいと思います」

自分の強みを活かして

今回のインタビューで、大矢が、まだ誰にも語っていないという将来の夢を話してくれた。

 「ついこの間も、地元の同級生と一緒に、地元を盛り上げる『何か』をしていきたいね、と話していたんです。今の自分の強みは、『自分の言葉を発信できること』。これを生かして、地域活性化や地域貢献につながるような仕事をしていきたいと思っています。番組のロケ等で、地元で頑張っている人、生き生きとしている人にお会いすると、良い意味で『くやしいなぁ~』って感じるんです。藤沢生まれ、藤沢育ち、純藤沢の人間としてできることをどんどんやっていきたいと思います」

 最近は、民放の人気番組への出演の機会も増え、活躍の場も広げつつある大矢。新しい体験、新しい出会いを繰り返すことで、自分に磨きをかけ続ける彼の瞳は、まっすぐに前を向いている。これからの活躍に、目が離せない。(了)